東京地方裁判所 平成8年(行ウ)146号 判決 1998年2月24日
原告
横川端
右訴訟代理人弁護士
橋本基一
同
室井優
被告
立川税務署長
片田達雄
右指定代理人
本田敦子
外三名
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
一 原告の平成三年分の所得税について、被告が原告に対し平成七年二月二八日付けでした更正処分のうち課税総所得金額一億一八五四万九〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち三万一〇〇〇円を超える部分を取り消す。
二 原告の平成四年分の所得税について、被告が原告に対し平成七年二月二八日付けでした更正処分のうち課税総所得金額一億三三六九万四〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち九〇〇〇円を超える部分を取り消す。
三 原告の平成五年分の所得税について、被告が原告に対し平成七年二月二八日付けでした更正処分のうち課税総所得金額一億五〇三三万九〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち八〇〇〇円を超える部分を取り消す。
第二 事案の概要
本件は、いわゆるコンドミニアム形式のリゾートホテルの一室を購入し、これをホテル経営会社に貸し付けていた会社役員である原告が、平成三年ないし平成五年(以下「本件係争各年」という。)分の所得税について、右建物の貸付けに係る不動産所得の金額の計算上損失が生じたため、これを他の各種所得の金額から控除して申告をしたところ、被告が、右建物は、所得税法(以下「法」という。)六二条一項、法施行令一七八条一項二号の「生活に通常必要でない資産」に当たるから、法六九条二項により、その損失は生じなかったものとみなされるとして、原告のした損益通算を認めず、本件係争各年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定をしたため、原告がこれを不服として、右各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定のうち、原告が適正なものと自認する前記第一の一ないし三記載の各金額を超える部分の取消しを求めている事案である。
一 関係法令の定め
1 所得金額の計算における損益通算
総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、法令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除することが認められているが(法六九条一項)、この場合において、右の損失の金額のうちに法六二条一項に規定する資産(生活に通常必要でない資産で政令で定めるもの)に係る所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、当該損失の金額のうち政令で定めるものは政令で定めるところにより他の生活に通常必要でない資産に係る所得の金額から控除するものとし、当該政令で定める以外のもの及び当該控除をしてもなお控除しきれないものは生じなかったものとみなすものとされている(法六九条二項)。
2 生活に通常必要でない資産の範囲等
法施行令一七八条一項は、法六二条一項の規定を受け、同項の生活に通常必要でない資産で政令で定めるものとは、①競争馬(その規模、収益の状況その他の事情に照らし事業と認められるものの用に供されるものを除く。)その他射こう的行為の手段となる動産(法施行令一七八条一項一号)、通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産(同項二号)、生活の用に供する動産で法施行令二五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)の規定に該当しないもの(同項三号)とする旨規定している。
なお、法施行令二〇〇条一項は、法六九条二項に規定する政令で定める損失の金額は、法施行令一七八条一項一号に規定する競争馬の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額とする旨規定しており、したがって、法施行令二〇〇条一項に規定されていない右以外の生活に通常必要でない資産に係る所得の金額の計算上生じた損失は、損益通算の対象とならないことになる。
二 前提となる事実
1 課税処分等の経緯
(以下の事実のうち、証拠を掲記したもの以外は、当事者間に争いがない事実である。)
(一) 原告は、東京都内に居住し、会社役員をしている者であるが、昭和六〇年一一月六日、岩手観光ホテル株式会社(以下「岩手観光」という。)から、岩手県二戸郡安代町字細野<番地略>に所在するいわゆるコンドミニアム形式のリゾートホテルである「ホテル安比グランド」(以下「本件ホテル」という。)の一六五二号室(以下「本件建物」という。)を五七〇〇万円で購入し、同日以来、本件建物をホテルの営業に供する目的で岩手観光に貸し付けている(甲六、乙一ないし一〇、証人勝雅行、原告本人)。
(二) 原告は、本件係争各年分の所得税について、本件建物の貸付けに係る原告の不動産所得の金額の計算上、次の(1)ないし(3)記載のとおりの損失(ただし、平成四年分及び平成五年分については、租税特別措置法四一条の四の規定により、損益通算の対象とならない土地の取得のために要した負債の利子の額に相当する部分の金額を除いた金額である。以下「本件各損失」という。)が生じたため、これを他の不動産所得の金額の計算上生じた損失と合算し、その損失金額を、他の各種所得の金額から控除して、平成三年分については平成四年三月一六日、平成四年分については平成五年三月一五日、平成五年分については平成六年三月一六日、被告に対し、青色の申告書により確定申告をした。なお、原告は、平成四年分の所得税については、確定申告書に記載した納付すべき税額に不足があったため、平成五年一一月八日、被告に対し修正申告をした。
(1) 平成三年分九五八万一七〇七円
(2) 平成四年分八二五万九八九七円
(3) 平成五年分七三六万二三七二円
(三) 被告は、本件建物は法六二条一項、法施行令一七八条一項二号に規定する生活に通常必要でない資産に当たるから、法六九条二項により本件各損失を損益通算の対象とすることはできないとして、平成七年二月二八日付けで、原告に対し、本件係争各年分の所得税について更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)をした。
(四) 原告は、本件各更正処分及び本件各賦課決定を不服として、平成七年四月二七日、被告に対し異議申立てをしたが、被告は、同年七月六日付けで、右異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をし、さらに、原告は、同年八月四日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は、平成八年三月二九日付けで、右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。
(五) 以上のほか本件各更正処分等の経緯は、別表一ないし三記載のとおりである。なお、右各別表中の「課税標準」欄記載の金額は、総所得金額を示すものである。
2 課税処分の根拠等
(一) 本件各更正処分の根拠
被告が本訴において主張する原告の本件係争各年分の所得税の総所得金額及び納付すべき税額は、本件各更正処分による総所得金額及び納付すべき税額と同額であり、その計算根拠は、次のとおりである。
(平成三年分)
(1) 総所得金額
一億三二七五万六六二九円
右金額は、次のイ及びウの金額からアの金額を控除した金額である。
ア 不動産所得の損失の金額(ただし、総所得金額計算上のもの)
五五六万六〇五〇円
右金額は、原告が被告に提出した平成三年分の所得税の確定申告書に記載した不動産所得の損失の金額一五一四万七七五七円から本件建物の貸付けに係る損失金額九五八万一七〇七円を控除した金額である。本件建物の貸付けに係る損失金額が総所得金額の計算上、生じなかったものとみなされることについては、後記三(被告の主張)記載のとおりである。
イ 配当所得の金額
一億〇二一二万六六七九円
ウ 給与所得の金額
三六一九万六〇〇〇円
(2) 納付すべき税額
二三一六万三〇〇〇円
右金額は、次のアの金額からイ及びウの金額を控除した金額(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てたもの。以下同じ。)である。
ア 課税総所得金額に対する税額
五九八五万一五〇〇円
右金額は、右(1)の総所得金額から法所定の所得控除の合計金額五二五万三一八〇円を控除した課税総所得金額一億二七五〇万三〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により、一〇〇〇円未満の端数を切り捨てたもの。以下同じ。)に法八九条一項(ただし、平成六年法律第一〇九号による改正前のもの。以下同じ。)の税率を乗じて算出した金額である。
イ 配当控除 五一〇万六三三三円
ウ 源泉徴収税額
三一五八万二一四〇円
(平成四年分)
(1) 総所得金額
一億五二〇六万八三五五円
右金額は、次のイないしエの金額からアの金額を控除した金額である。
ア 不動産所得の損失の金額(ただし、総所得金額計算上のもの)
二〇八万七七三一円
右金額は、前同様に、原告が被告に平成五年一一月八日に提出した平成四年分の所得税の修正申告書に記載した不動産所得の損失の金額一〇三四万七六二八円から本件建物の貸付けに係る損失金額八二五万九八九七円を控除した金額である。
イ 配当所得の金額
一億一六二一万五一二〇円
ウ 給与所得の金額
三七八二万四三〇〇円
エ 雑所得の金額一一万六六六六円
(2) 納付すべき税額
二六二四万一八〇〇円
右金額は、次のアの金額からイ及びウの金額を控除した金額である。
ア 課税総所得金額に対する税額
六六九八万三〇〇〇円
右金額は、右(1)の総所得金額から法所定の所得控除の合計金額一〇三〇万一五〇〇円を控除した課税総所得金額一億四一七六万六〇〇〇円に法八九条一項の税率を乗じて算出した金額である。
イ 配当控除 五八一万〇七五六円
ウ 源泉徴収税額
三四九三万〇三六五円
(平成五年分)
(1) 総所得金額
一億六四九〇万六五二〇円
右金額は、次のイないしエの金額からアの金額を控除した金額である。
ア 不動産所得の損失の金額(ただし、総所得金額計算上のもの)
九六万四一八三円
右金額は、前同様に、原告が被告に提出した平成五年分の所得税の修正申告書に記載した不動産所得の損失の金額八三二万六五五五円から本件建物の貸付けに係る損失金額七三六万二三七二円を控除した金額である。
イ 配当所得の金額
一億二六七九万五九〇三円
ウ 給与所得の金額
三七九五万三五〇〇円
エ 雑所得の金額
一一二万一三〇〇円
(2) 納付すべき税額
三一四二万九七〇〇円
右金額は、次のアの金額からイ及びウの金額を控除した金額である。
ア 課税総所得金額に対する税額
七四八六万四〇〇〇円
右金額は、右(1)の総所得金額から法所定の所得控除の合計金額七三七万八一六八円を控除した課税総所得金額一億五七五二万八〇〇〇円に法八九条一項の税率を乗じて算出した金額である。
イ 配当控除 六三三万九七九五円
ウ 源泉徴収税額
三七〇九万四四八八円
(二) 本件各賦課決定の根拠
被告は、原告が本件係争各年分の所得税について、いずれも過少に申告していたものとして、国税通則法六五条一項に基づき、本件各更正処分により納付すべきこととなった税額を基礎として、次のとおり計算した過少申告加算税の額を賦課決定したものである。
(1) 平成三年分 四七万九〇〇〇円
右金額は、平成三年分の更正処分により原告が納付すべきこととなった税額四七九万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てたもの。以下同じ。)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額である。
(2) 平成四年分 四一万三〇〇〇円
右金額は、平成四年分の更正処分により原告が納付すべきこととなった税額四一三万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額である。
(3) 平成五年分 三六万八〇〇〇円
右金額は、平成五年分の更正処分により原告が納付すべきこととなった税額三六八万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額である。
(三) 原告は、前記(一)の本件係争各年分の所得税の総所得金額及び納付すべき税額の計算根拠のうち、不動産所得の損失の金額(ただし、総所得金額計算上のもの)については、これを争っているが、不動産所得以外の所得の金額、法所定の所得控除及び配当控除の金額並びに源泉徴収税額については、被告の主張事実を認めている。
なお、原告は、本件係争各年分の所得税の申告においては、本件各損失の金額について損益通算が認められるべきであるとして、その納付すべき税額を計算していたが、審査請求及び本訴においては、本件係争各年において、原告又は原告が指定した者が本件建物を保養のために利用した期間に対応する経費は、法四五条(家事関連費等の必要経費不算入等)一項により、本件建物の貸付けに係る不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないとして、本件各損失の金額から右の必要経費に算入できない経費の金額を控除した金額、すなわち、平成三年分については八九五万四二三一円、平成四年分について八〇七万一九八〇円、平成五年分については七一八万八九〇五円が損益通算の対象となる旨主張している。そして、原告は、右の損益通算がされることを前提に原告の本件係争各年分の課税総所得金額を計算すると、平成三年分が一億二八五四万九〇〇〇円、平成四年分が一億三三六九万四〇〇〇円、平成五年分が一億五〇三三万九〇〇〇円となるとして、本件各更正処分のうち右の各課税総所得金額を超える部分及び本件各賦課決定のうち右の各課税総所得金額を前提として計算した過少申告加算税の額を超える部分の取消しを求めている。
三 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は、本件各損失(ただし、原告又は原告の指定した者が本件建物を保養のために利用した期間に対応する前記二2(三)記載の経費を除く。以下同じ。)が本件係争各年分の所得税の総所得金額の計算上損益通算の対象となるかどうかであり、具体的には、本件建物が、生活に通常必要でない資産として法施行令一七八条一項二号が規定する「通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するもの」に該当するかどうかが問題となる(ただし、右の要件のうち、本件建物が通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋であることは、当事者間に争いがない。)。
右争点に関する当事者の主張は、次のとおりである。
(被告の主張)
1 法六九条二項により、生活に通常必要でない資産に係る所得の金額の計算上生じた損失の金額が損益通算の対象とされていないのは、右損失は、家事費的性質を有するものであって個人的な消費という面が強く、いわば所得の処分的色彩を有するにすぎないことから、これを他の各種所得の担税力の減殺要素として取り扱い、損益通算の対象とすることを認めるのは適当でないということに基づくものである。これを法施行令一七八条一項二号の不動産(以下「生活に通常必要でない不動産」という。)についていえば、個人が不動産を取得し、維持管理し、処分するなどに当たっては様々な支出を要するのが通常であるが、その不動産の主たる所有目的が趣味、娯楽、保養又は鑑賞である場合には、その取得、維持管理、処分等に要する支出も、主として、所得獲得目的ではなく、趣味、娯楽、保養又は鑑賞という目的で行われたものとみられるが故に、基本的に家事費的性質、すなわち、個人的な消費支出という経済的性質を帯び、余剰所得の処分的側面を有するものと観念されることになる。このような支出も従として何らかの収入獲得に寄与することはあり得るが、なお基本的には余剰所得の処分たる経済的性質を有することにかんがみると、獲得された収入の金額を超える損失を他の所得の担税力の減殺要素として取り扱い、損益通算の対象とすることは相当ではない。例えば、生活に通常必要でない不動産に該当するとされる典型的な例として別荘やリゾートマンションを挙げることができるが、別荘やリゾートマンションの取得費、維持管理費等は、本来これらを所有するために負担しなければならない家事費であって、課税上考慮されるべきものではないのであるから(法四五条一項一号参照)、たまたまこれを短期間他に賃貸し収入を得たことにより右支出中に右収入に対応する経費部分を観念することができたとしても、当該収入を超える経費部分を他の各種所得から控除することが相当でないことは明らかである。このように解すると、法施行令一七八条一項二号の要件は、主たる所有目的により支出の基本的な経済的性質が決せられることを前提に設けられたものということができる。
2 ところで、およそ個人が不動産を所有する意図は多種多様であり得、生活に通常必要でない不動産の典型例である別荘やリゾートマンションでさえ、これを所有する意図が必ずしも常に趣味、娯楽又は保養に尽きるわけではなく、将来の財産形成を図る意図や他に貸し付けることによってその運用益を得る意図など他の意図で所有する場合や、これらの意図を併せ有する場合もある。しかしながら、前記のとおり、法施行令一七八条一項二号の要件が主たる所有目的によって支出の基本的な経済的な性質が決せられることを前提に設けられたと解されることからすると、右要件該当性の判断に当たっては、当該不動産に係る支出ないし負担の経済的性質を重視し、所有者の主観的な意図によることなく、当該不動産の立地状況及び設備、所有者が当該不動産を所有するに至った経緯、当該不動産により所有者が受け又は受けることができた利益及び負担の性質、内容、程度など諸般の事情を総合し、客観的にその主たる所有目的を判断すべきものである。
3 本件建物について、これらをみてみれば、本件建物は、著名なリゾート地に位置し、充実した設備を有するリゾートホテルの客室の一つであり、しかも客室の中でも最高級に近いクラスのタイプのものであって、原告は客室利用料が無料であることやリフトやゴルフクラブなどの関連施設の利用上の特典があること、一般客の宿泊による室料の半額がペイバックされ、管理費等が必要経費となるため合理的な節税対策になることなどの説明を受けてこれを五七〇〇万円で購入し、その後これを所有することによって、本件係争各年において、その利用上の利益と金銭的収入を受け又は受けることができたものであるから、原告らはこれらの利用上の利益と金銭的収入を受ける目的で本件建物を所有していたものということができ、右利用上の利益の内容からみて、本件建物について原告に趣味、娯楽又は保養の用に供する目的があったことは明らかである。
そして、原告が本件係争各年において受け又は受けることのできた右の利用上の利益の内容、本件建物の貸付けによる金銭的収入は、原告が本件係争各年において定額的な費用として負担した年間八〇〇万円から一〇〇〇万円近い費用の反面において得られたものであるが、右の負担は、それが主として前記利用上の利益のためになされたものとするならば、いわば別荘に係る負担に類似するものとして経済的合理性を認めることができるものである。これに対し、右の金銭的収入は、反対給付との経済的な対応関係に乏しい偶発的な収入である上、管理費の二割にも達せず、原告が負担した年間八〇〇万円から一〇〇〇万円近い費用の一割にさえ満たない金額であって、本件係争各年を通じて大きな損失が生じており、右のような巨額の費用負担が主としてこのような金銭的収入を得るためになされたものとすることは、経済的にみて著しく不合理であり、むしろ、右の金銭的収入は、経済的には、本件建物のいわば別荘としての利用上の利益を得るために前記のような巨額の負担が生ずることを前提として、右の巨額な負担の中に当該収入に対応する必要経費部分を観念することを可能とすることによって、合理的な節税対策に資することを目的とするものとみるのが相当である。右の各点に照らせば、趣味、娯楽又は保養の用に供する目的が本件建物の主たる所有目的であったというべきである。
4 以上のとおり、本件建物に係る支出ないし負担の経済的性質を重視し、本件建物の立地状況及び設備、原告が本件建物を取得するに至った経緯、本件建物により原告が受け又は受けることのできた利益及び負担の性質、内容、程度など諸般の事情を総合すると、原告は、主として本件建物による利用上の利益を受けることを目的としてこれを取得し、その維持、管理に要する費用を負担してきたと認めるのが合理的である。
したがって、本件建物は、法施行令一七八条一項二号の生活に通常必要でない不動産に該当するから、本件建物に係る不動産所得の金額の計算上生じた本件各損失は損益通算の対象とならないというべきである。
(原告の主張)
1 原告が本件建物を主として趣味、娯楽、保養の用に供する目的で所有するものであるかどうかを判断するに当たっては、原告の主観的な意思を最優先すべきである。
すなわち、原告は、岩手観光から、本件建物は事業用不動産と認定されるので、節税対策として有効であるとの説明を受け、その点に着目して本件建物を取得したものである。原告としては、本件建物はホテル事業がうまくゆけばかなりの高収入を上げられるし、そうでないとしても、その賃料収入、所得税及び住民税の節税効果並びに不動産所得の計算上必要経費となる建物の減価償却費は金銭の支出を伴わないことにより、結局、本件建物を購入したときは購入しないときより、現金の出費が少なくなり、そのうちに本件建物の値上がり益も見込めるものと考えて本件建物を購入したものである。
これに対し、原告には、本件建物を主として趣味、娯楽、保養の用に供する目的で取得し、所有する意思は全くなかった。原告は、本件建物が存在するような原告の住所地から遠方に、主として趣味、娯楽、保養の用に供する不動産を購入するつもりは全くなかったし、原告にそのような意思があったと考えること自体不合理である。原告が主として趣味、娯楽、保養の用に供する目的で不動産を購入するつもりであるならば、原告の住所地から近い、交通の便のよい所を選択するのが当然である。
原告にとっては、本件建物を購入することにより得られる利用上の特典は、取るに足らないどうでもよいことであり、利用上の特典があるから本件建物を購入したというものでは決してない。
2 被告は、本件建物の貸付けにより得られる金銭的収入が管理費等の費用の額に比して少額であるから、本件建物の主たる所有目的が趣味、娯楽又は保養の用に供することである旨主張する。
しかしながら、本件建物を含む本件ホテルは、有名なリゾート地に位置し、利用客の満足が得られるように様々な工夫がされたリゾートホテルであって、原告は、岩手観光に本件建物を貸し付けることにより、一年中ホテル利用客に本件建物を使用させることが可能となり、かなりの高収入を得られることを予想して本件建物を購入したのである。結果的には、不況の影響等により利用客が少なく、賃料収入は少額にとどまっているが、バブル崩壊による大不況がこれだけ長期間継続することは、原告を含めだれにも予想できなかったことである。
景気のよい時は、都心のワンルームマンション等は、損益通算という節税効果による金銭支出の減少による利益及び必要経費として計上できる減価償却費は金銭支出を伴わないことが考慮され、併せて値上がり益を予想して多くの人が購入したものである。原告は、これらと同様の意図で本件建物を購入し、所有しているのであり、たまたま不動産の所在地が都心かリゾート地かにより税務上の取扱いが異なるのは不合理である。
3 以上のとおり、原告が、本件建物を主として趣味、娯楽、保養の用に供する目的で所有するものでないことは明らかであり、本件建物に係る不動産所得の金額の計算上生じた本件各損失は損益通算の対象とされるべきである。
第三 当裁判所の判断
一 法施行令一七八条一項二号の要件該当性の判断方法について
1 前記第二の一記載のとおり、法六九条二項により、生活に通常必要でない資産に係る所得の計算上生じた損失の金額は、競争馬の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額について限定的に損益通算が認められているほかは、損益通算の対象とならないものであるが、これは、生活に通常必要でない資産に係る支出ないし負担は、個人の消費生活上の支出ないし負担としての性格が強く、このような支出ないし負担の結果生じた損失の金額について、損益通算を認めて担税力の減殺要素として取り扱うことは適当でないとの考え方に基づくものと解される。
2 ところで、法施行令一七八条一項二号は、「通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産」を生活に通常必要でない資産として規定しており、家屋その他の不動産については、その主たる所有目的によって、当該不動産に係る所得の計算上生じた損失が損益通算の対象となるか否かが決せられることとなるところ、原告は、右の主たる所有目的の認定に当たっては、当該所有者の主観的な意思を最優先すべきであるとの趣旨の主張をしている。
しかしながら、個人の主観的な意思は外部からは容易には知り難いものであるから、一般論として、租税法上の要件事実の認定に当たり、客観的事実を軽視し、個人の主観的な意思を重視することは、税負担の公平と租税の適正な賦課徴収を実現する上で問題があり、適当でないというべきである。のみならず、前示のとおり、法六九条二項が生活に通常必要でない資産に係る所得の計算上生じた損失について損益通算を認めていないのは、その資産に係る支出ないし負担の経済的性質を理由とするものであるところ、このような支出ないし負担の経済的性質は、本来、個人の主観的な意思によらずに、客観的に判定されるべきものであることからすると、法施行令一七八条一項二号の要件該当性を判断する上でも、当該不動産の性質及び状況、所有者が当該不動産を取得するに至った経緯、当該不動産より所有者が受け又は受けることができた利益及び所有者が負担した支出ないし負担の性質、内容、程度等の諸般の事情を総合的に考慮し、客観的にその主たる所有目的を認定するのが相当である。
したがって、原告の前記主張は採用することができない。
二 本件建物の法施行令一七八条一項二号の要件該当性について
本件建物が、通常原告又は原告と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋であることは当事者間に争いがなく、本件においては、専ら、本件建物が主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものであるか否かが問題となるので、右一2に説示した観点から以下検討する。
1 次の各事実は、当事者間に争いがない。
(一) 本件建物の性質及び状況
(1) 本件建物の所在地は、岩手県北部の安比高原に位置するが、同所は十和田八幡平国立公園のうち八幡平地区に隣接したリゾート地として、スキー場、ゴルフ場、乗馬クラブ等の施設が散在する地域であり、特にスキー場が全国的に知られているため冬季に訪れるスキー客が多い。
(2) 本件建物を含む本件ホテルは、地下二階建て地上九階建ての建物であるが、ホテル用施設として建築され、これに隣接する「ホテル安比グランドタワー」(以下「タワー」という。)と一体の施設として、岩手観光によりホテルの営業に供されており、いわゆるコンドミニアム形式のリゾートホテルとなっている。施設全体の概要として、客室部分のほか、ロビー、レストラン、大宴会場等のパブリックスペースが設けられており、右パブリックスペースの面積は延床面積の約五割を占めている。また、客室には十数種類のタイプがあり、タイプに応じて分譲価格、客室料金、管理費が定められている。
(3) 本件建物は、本件ホテルの六、七階に位置する二階建ての建物であり、その床面積は登記簿上六階部分が56.48平方メートル、七階部分が28.33平方メートルと広く、従物として家具、備品が付属しており、デラックスメゾネットタイプと称するタイプの客室の一つとなっている。デラックスメゾネットタイプは全客室の中でも四番目に客室料金の高いクラスのタイプで、その客室料金は昭和六〇年当時で一泊四万二〇〇〇円に設定されており、これを越えるクラスのタイプは三タイプで合計四室のみとなっている。
(二) 本件建物取得の経緯
本件ホテルは、昭和六〇年一二月に完成したが、岩手観光は、これに先立って同年一月ころから、主に岩手観光及び株式会社リクルートの顧客を対象として購入者の募集を開始した。購入希望者等に対する説明や勧誘においては、事業用資産としての不動産投資であるため、オーナーとなることによる本件ホテルの利用上のメリット(その内容については、後記(三)記載のとおり)のほかに合理的な節税対策になることが強調されていた。原告に対しても、岩手観光の担当者から右のような説明と勧誘が行われ、原告は、同年一一月六日、五七〇〇万円で本件建物を購入した。
(三) 本件建物より受け又は受けることができた利益
(1) 利用上の利益
原告は、本件建物を購入して以来、ホテルの営業に供する目的で本件建物を岩手観光に貸し付けているが、本件係争各年において、原告はオーナーとして次のような利益を受けることができた。
ア 客室への宿泊
原告又は原告の指定する者が、本件建物に宿泊する場合、客室料金は何回利用しても無料であった。ただし、ホテル宿泊約款に定める諸規則を遵守することを要し、また、利用に伴い税金が必要な場合には原告が負担することとされていた。
本件係争各年当時、オーナーが本件ホテルに宿泊する方法は次のとおりであった。
すなわち、まずオーナーにおいて岩手観光から送付される「ご予約カレンダー」(以下「カレンダー」という。)に向後二か月間の利用予定日を記入し、利用予定日の一か月前までに返送することになっていた。しかし、正規の予約は別途利用申込書を岩手観光に送付して行うこととされており、カレンダーの返送から利用申込書の送付までの間に一般客の予約申込みがあった場合には、一般客の予約を受け付け、その後オーナーから正規の予約があった段階で一般客の客室を変更してオーナーをその所有する客室に宿泊させるか、又は所有する客室以外の客室(タワーの客室を含む。)に宿泊させる取扱いであった。後者の場合における宿泊料金は利用する客室がオーナーの所有する客室を越えるクラスである場合はオーナーにおいて差額を支払うこととされ、それ以外は無料とされていた。また、ホテルの繁忙期は夏期及び冬季で、特に毎年一二月から翌年五月までのいわゆるスキーシーズン、なかんずく年末年始が最盛期であり、岩手観光としては、この期間は宿泊料金が無料でない一般客の利用を促進したい考えはあるものの、オーナーの利用も利用率にして約七〇パーセントと高いため、一般客の予約を調整しながらオーナーの予約を入れ、最終的には利用を希望するオーナーのほとんどが利用できるように配慮した運営が行われていた。
なお、本件係争各年における原告及び原告の指定した者の本件建物利用状況は、別表四記載のとおりであり、平成三年中は延べ二三日間、平成四年中及び平成五年中はそれぞれ延べ八日間の利用であった。
イ 本件ホテル及びタワー内の他の施設の利用
原告は、オーナーとして、本件ホテル及びタワー内の室内温水プール、トレーニングルーム、スカッシュコート、テニスコート等のスポーツ施設を特別割引料金で利用することができた。また、原告及びその同伴者は、一部屋につき一名を登録することを条件に、本件ホテル及びタワー内に設けられたオーナー専用ラウンジ及びオーナー専用ロッカーを利用することができた。
ウ 関連施設の利用
原告は、一部屋につき一名を登録することを条件に、安比高原ゴルフクラブにおいて、曜日を問わず会員料金でプレーすることができた。また、原告及び原告の指定する者が本件建物に宿泊するときは、安比高原スキー場等の一日リフト券が、最大ベッド数を限度として宿泊人数分、無料で提供された。
(2) 金銭的収入
本件係争各年当時、岩手観光は、原告に対し、本件建物の賃借料として、次の計算式によって算定した金員を年一回支払うことを約しており(ただし、後記(四)(1)記載の管理費と相殺の上その差額を支払うものとされていた。)、原告には、別表5記載のとおり、平成三年に三七万六〇三五円、平成四年に三一万三六七〇円、平成五年に五五万一九四八円の家賃収入があった。
(賃借料算定の計算式)
ア 同タイプの客室一部屋当たりの年間支払料金額=同タイプの全客室の一般客の利用に伴う年間支払料金の合計額/同タイプの全客室数
イ 原告及び原告の指定した者以外の者の利用割合=(同タイプの客室の平均利用回数―原告又は原告の指定する者の本件建物利用回数)/同タイプの客室の平均利用回数
ウ 原告に支払われる賃借料=ア×イ×0.5
(四) 本件建物に係る負担
(1) 原告は、本件建物を購入して以来、ホテル運営のために必要な本件建物の管理を岩手観光に委託し、定額の管理費を支払っているが、本件係争各年において原告が支払った管理費は、平成三年分が二三三万六〇四〇円、平成四年分及び平成五年分がいずれも三〇三万六八五二円であった。
(2) そのほか、原告は本件建物を所有することにより租税公課、損害保険料など別表5に記載した支出ないし負担をしており、本件係争各年における右負担と前記の管理費並びに減価償却費との合計額は、平成三年分が九九五万七七四二円、平成四年分が八九七万三八一一円、平成五年分が八二二万二八六三円であった。
2(一) 右事実に基づき原告の本件建物の所有目的について検討するに、本件建物は、著名なリゾート地に所在し、充実した設備を有するいわゆるコンドミニアム形式のリゾートホテルの一室であり、そのオーナーとなることによって、客室料金の負担なしで宿泊が可能になるなどの種々の利用上の利益があるものであって、実際に、本件係争各年において、原告又は原告の指定する者が本件建物を利用していることにかんがみれば、原告が本件建物を保養の用に供する目的をもって所有していたことは明らかである。
(二) そこで、進んで、保養の用に供する目的が本件建物の主たる所有目的であったか否かについて検討するに、本件係争各年において、原告が本件建物を所有することにより受け又は受けることができた利用上の利益は、客室料金の負担なしで年何回でも本件建物に宿泊することができるほか(なお、本件ホテルの客室の利用に当たっては、基本的に、オーナーであると一般客であるとを問わず、先に予約をした者を優先することになっていたが、オーナーの利用に配慮し、最盛期においても、一般客の予約を調整しながらオーナーの予約を入れ、最終的には利用を希望するオーナーのほとんどが利用できるような形で運営が行われていたことは前示のとおりである。また、オーナーが一般客の予約等の関係で自己の所有する客室以外の客室を利用する場合に、その客室がオーナーの所有する客室を越えるクラスであるときは、オーナーにおいて差額を支払う必要があるが、本件建物は、十数種類のタイプがある全客室の中で四番目に客室料金の高いクラスのタイプで、これを越えるクラスのタイプは三タイプで合計四室のみとなっていたから、原告は、本件建物以外の客室であってもほとんどの場合無料でこれを利用することができたことになる。)、本件ホテル及びタワー内の各種スポーツ施設の特別料金での利用、本件ホテル及びタワー内のオーナー専用施設の利用、ゴルフ場の利用面での優遇、スキー場の無料リフト券の提供といったオーナーの特典を享受でき、充実した内容となっていたのに対し、本件係争各年において、本件建物を岩手観光に貸し付けることによる原告の家賃収入は、原告が岩手観光に支払う管理費の二割にも達せず、減価償却費が、借入金利子、租税公課等を含めた年間約八〇〇万円から約一〇〇〇万円の経費全体と比較するとその一割にさえ遠く及ばない金額であった。右の事実に加えて、前示のとおりの本件建物の性質及び状況を客観的にみるならば、原告の主張するような不況の影響による本件ホテルの一般客の利用の低迷があるとしても、本件建物の貸付けによる金銭的収入の獲得は、本件建物の利用による利益の享受と比較して副次的なものとみざるを得ず、原告は、本件係争各年において、本件建物を主として保養の用に供する目的で所有していたと認めるのが相当というべきである。
(三) 原告は、本件建物を貸し付けることによる家賃収入が得られるほか、これを所有することによる節税効果に着目し、また、将来の値上がり益をも見込んで本件建物を購入したものであって、主として保養の用に供する目的で本件建物を所有していたものではない旨主張し、本人尋問において、これに沿う供述をしているところ、前示のとおり、岩手観光による本件ホテルの購入希望者等に対する説明又は勧誘の際には、合理的な節税対策となる点が強調されていたことからすると、原告が本件建物の購入を決定するに当たり、その節税効果に着目していたことは、これを認めるに難くないところである。
しかしながら、原告は、五七〇〇万円もの代金を支払って本件建物を取得し、その後においても、管理費等として年間約六三〇万円から七六〇万円の費用を負担しなければならないところ、本件建物を所有することが節税対策として有効であるといっても、右の節税効果というのは、本件建物の管理費等の費用(減価償却費を含む。)のうち本件建物の貸付けによる家賃収入を超える部分が法六九条一項の適用により損金として原告の他の各種所得の金額と通算され、それだけ原告の各年分の納付すべき税額が減少し、納付すべき税額の減少分だけ本件建物の所有のために要する多額の費用の一部を補うことができるというものであって、資産の運用によって損失が生ずることに伴う副次的経済効果にすぎない。法施行令一七八条一項二号に規定する生活に通常必要でない不動産に該当するかどうかは、客観的にみて当該不動産の本来の使用、収益の目的が何かによって判断すべきものであり、右のような節税効果が得られるかどうかは、その本来の使用、収益の目的が何かによって決せられるべきものと解されるから、本来の使用、収益の目的が何かを判断するに当たって、右節税効果が得られるかどうかを主要な判断要素として考慮すべきものとすることは本末転倒の議論であって相当でないというべきである。本件建物の貸付けによる家賃収入がその所有に要する費用の負担と比較して著しく少額であることは前記認定のとおりであり、右の観点からすれば、原告が右節税効果に着目して本件建物を取得したものとしても、本件建物の主たる所有目的が本件建物の貸付けその他による経済的利益の獲得であると認めることは到底できない。
また、原告は、本件建物の値上がり益も見込んで本件建物を取得したともいうが、それは、原告の主観的な意図にとどまるものであり、原告がこれを転売目的で取得したことを客観的に裏付ける証拠はなく、右のような主観的な意図の存在によって、本件建物の主たる所有目的が影響を受けることはないというべきである。
前示のとおり、法施行令一七八条一項二号の要件該当性を判断する上では、所有者の主観的な意思ないし意図によらずに、客観的に当該不動産の主たる所有目的を認定すべきであり、本件において、原告が本件建物を取得、所有している目的が主観的には原告主張のとおりであったとしても、このことは、本件係争各年において、原告が主として保護の用に供する目的で本件建物を所有していたとの前記認定を妨げるものではないというべきである。
(四) 本件においては、他に、本件係争各年において原告が主として保養の用に供する目的で本件建物を所有していたとの前記認定を左右するに足りる証拠はない。
3 したがって、本件建物は、通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として保養の用に供する目的で所有するものと認められるから、法施行令一七八条一項二号に規定する生活に通常必要でない不動産に該当するというべきである。
三 そうすると、被告が、本件係争各年分の所得税について、本件建物に係る不動産所得の金額の計算上生じた損失が損益通算の対象とならないものとしてした本件各更正処分は、適法というべきであり、国税通則法六五条一項に従って、本件各更正処分による納付すべきこととなった税額を基礎として過少申告加算税を賦課した本件各賦課決定も適法というべきである。
第四 結論
よって、原告の本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官青栁馨 裁判官増田稔 裁判官篠田賢治)
別表<省略>